説明

グリオキサラーゼI活性を阻害するアポトーシス誘導剤

【課題】GSHを基本骨格としない新規な骨格を有するグリオキサラーゼI活性阻害剤およびアポトーシス誘導剤を提供すること。
【解決手段】特定のファーマコフォアを有する化合物を含むグリオキサラーゼI活性阻害剤、およびそのグリオキサラーゼI阻害作用に基づくアポトーシス誘導剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なグリオキサラーゼI活性阻害剤に関する。さらに詳細には、本発明はグリオキサラーゼI活性を阻害するアポトーシス誘導剤に関する。
【背景技術】
【0002】
グリオキサラーゼI(GLO I)は、メチルグリオキサール(MG)とグルタチオン(GSH)からS−D−ラクトイルグルタチオンを生成させる酵素である。その後、S−D−ラクトイルグルタチオンはグリオキサラーゼII(GLO II)により乳酸へと代謝される(式1参照)。MGは解糖系の代謝副産物であるが、反応性の高いジカルボニル化合物であることから、タンパク質、DNA、RNAを非可逆的に修飾し、細胞死(アポトーシス)を誘発する。よって、GLO Iは細胞内で毒性の強いMGを乳酸へと無毒化する役割を担っている。
【0003】
【化1】

【0004】
これまでの研究では、GLO Iは大腸及び前立腺癌細胞等に過剰に発現しており、また、抗癌剤に耐性を示す細胞株においても高発現していることが報告されている(非特許文献1〜3)。以上のことから、GLO I活性を阻害する薬剤は、癌細胞にMGを蓄積させ、アポトーシスを誘導するという新しいタイプの抗癌剤として注目されており、これまでにいくつかのGSH類縁体が開発されている(非特許文献4)。
しかしながら、GSH誘導体は、in vitroにおいては強いGLO I阻害活性を示すが、GSHが持つペプチド骨格、特に負電荷を持つ2つのカルボキシル基(式2参照)が膜透過性、吸収性、安定性に影響を与え、医薬品のリード化合物としては不適切であると考えられている。
【0005】
【化2】


【非特許文献1】Davidson SD, Cherry JP, Choudhury MS, Tazaki H, Mallouh C, Konno S. Glyoxalase I activity in human prostate cancer: a potential marker and importance in chemotherapy. J Urol. (1999) 161, 690−691
【非特許文献2】Ranganathan S, Walsh ES, Tew KD. Glyoxalase I in detoxification: studies using a glyoxalase I transfectant cell line. Biochem J. (1995) 309, 127−131
【非特許文献3】Sakamoto H, Mashima T, Kizaki A, Dan S, Hashimoto Y, Naito M, Tsuruo T. Glyoxalase I is involved in resistance of human leukemia cells to antitumor agent−induced apoptosis. Blood. (2000) 9, 3214−3218
【非特許文献4】Creighton DJ, Zheng ZB, Holewinski R, Hamilton DS, Eiseman JL. Glyoxalase I inhibitors in cancer chemotherapy. Biochem Soc Trans. (2003) 31, 1378−1382.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような背景から本発明者らは、GLO I活性阻害剤としてGSHを基本骨格として有していない新規な低分子化合物が必要とされていると考え、GLO I活性を阻害しかつ上記問題点を改善可能なアポトーシス誘導剤を提供することを本発明の目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、GLO Iの特定の4つの結合ポケット(図1、S〜S)との結合領域を有する化合物がGLO I活性を有意に阻害しかつアポトーシスを誘導することを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。なお、ファーマコフォアの定義においては通常の構造式の結合は破線で示してある。
(1) 以下のファーマコフォア
【0008】
【化3】

【0009】
〔式中、Rはヒドロキシ、C1−6アルコキシ、水素またはハロゲンであり;Rはヒドロキシ、C1−6アルコキシ、アリール、アリールオキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、ハロゲンまたは水素であり;Rは−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO−または−NR−(Rは水素またはC1−6アルキルである)で示される2価の基、あるいは、水素、ヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、アミノまたはC1−6アルキル−カルボニルであり;R、R、Rはそれぞれ独立してヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、置換されていてもよいアリル、ニトロ、水素またはハロゲンであり;Rはヒドロキシまたは水素である〕
を有する化合物またはその配糖体を少なくとも一種含有する、グリオキサラーゼI活性阻害剤。
(2) 以下の式(I−a)または(I−b)
【0010】
【化4】

【0011】
〔式中、R11はC1−6アルコキシまたは水素であり;R12はヒドロキシ、C1−6アルコキシ、アリール、アリールオキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、ハロゲンまたは水素であり;R13はヒドロキシ、C1−6アルコキシ、水素またはハロゲンであり;R14はヒドロキシまたは水素であり;R15、R16、R17はそれぞれ独立してヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、置換されていてもよいアリル、水素またはハロゲンであり;R18は、ヒドロキシ、C1−6アルキル−カルボキシまたは水素であり;点線部は任意で単結合であり、点線部に単結合がある場合、Xは−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO−または−NR19−(R19は水素またはC1−6アルキルである)で示される2価の基であり、点線部に結合が存在しない場合、Xは水素、ヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、アミノまたはC1−6アルキル−カルボニルであり;Xは−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO−または−NR19−(R19は水素またはC1−6アルキルである)で示される2価の基である〕で示される化合物、および
式(II)
【0012】
【化5】

【0013】
〔式中、R21はオキソ、アリールまたは水素であり;R22はアリール、含窒素複素環基、ヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、アリール−C1−6アルキル、C1−6アルコキシ−カルボニルまたは水素であるか;またはR21とR22は各基が結合する5員環上の原子と一緒になって、芳香族環、C3−6シクロアルカン、C3−6シクロアルケンを形成し;R23はヒドロキシまたは水素であり;R24は置換されていてもよいアリールであり;Y、Zは独立してそれぞれ窒素または炭素であり;Wは−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO−、−CH−、−NR25−(R25は水素またはC1−6アルキルである)で示される2価の基であるか、または結合であるか、あるいはZが炭素であるときWが=CH−であり;
【0014】
【化6】

【0015】
は、Y、Z、Wの種類に依存して単結合もしくは二重結合を示す〕で示される化合物、ならびに
それらの配糖体からなる群から選択される化合物を含有する、グリオキサラーゼI活性阻害剤。
(3) R12がヒドロキシ、C1−6アルコキシ、またはC1−6アルキル−カルボキシであり;R13がヒドロキシ、C1−6アルコキシまたは水素であり;R15、R16、R17がそれぞれ独立してヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、置換されていてもよいアリルまたは水素であり;点線部が単結合である場合、Xが−O−であり、点線部に結合が存在しない場合、Xが水素であり;Xが−O−であり;
22がアリール、アリール−C1−6アルキルまたはC1−6アルコキシ−カルボニルであるか、またはR21とR22が各基が結合する5員環上の原子と一緒になって、C3−6シクロアルケンを形成し;R23がヒドロキシであり;Yが炭素であり;Zが窒素でありかつWが−CH−または結合であるか、あるいはZが炭素でありかつWが=CH−である、上記(2)に記載のグリオキサラーゼI活性阻害剤。
(4) アポトーシス誘導剤である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載のグリオキサラーゼI活性阻害剤。
(5) 以下の式(III)
【0016】
【化7】

【0017】
〔R31はヒドロキシ、アリール、アリールオキシ、アリールで置換されていてもよいC1−6アルコキシ、C1−6アルケニルオキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、ハロゲンまたは水素であり;R32はヒドロキシ、C1−6アルコキシ、水素またはハロゲンであり;R33はヒドロキシまたは水素であり;R34、R35、R36はそれぞれ独立してヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、置換されていてもよいアリル、水素またはハロゲンである〕で示される化合物またはその配糖体。
(6) R31がヒドロキシ、アリールオキシ、アリールで置換されていてもよいC1−6アルコキシまたはC1−6アルケニルオキシであり;R32がヒドロキシであり;R33がヒドロキシであり;R34、R35およびR36のいずれか1つが水素であり、残りの2つがヒドロキシである、上記(5)に記載の化合物またはその配糖体。
(7) R31がアリールオキシである、上記(6)に記載の化合物またはその配糖体。
(8) 被験化合物のファーマコフォアを調べる工程と、
該ファーマコフォアが以下のファーマコフォア
【0018】
【化8】

【0019】
〔式中、Rはヒドロキシ、C1−6アルコキシ、水素またはハロゲンであり;Rはヒドロキシ、C1−6アルコキシ、アリール、アリールオキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、ハロゲンまたは水素であり;Rは−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO−または−NR−(Rは水素またはC1−6アルキルである)で示される2価の基、水素、ヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、アミノまたはC1−6アルキル−カルボニルであり;R、R、Rはそれぞれ独立してヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、置換されていてもよいアリル、ニトロ、水素またはハロゲンであり;Rはヒドロキシまたは水素である〕に合致するかどうかを調べる工程と
を含む、グリオキサラーゼI活性阻害活性を有する化合物をスクリーニングする方法。
(9) 被験化合物のファーマコフォアを調べる工程と、
該ファーマコフォアが以下のファーマコフォア
【0020】
【化9】

【0021】
〔式中、Rはヒドロキシ、C1−6アルコキシ、水素またはハロゲンであり;Rはヒドロキシ、C1−6アルコキシ、アリール、アリールオキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、ハロゲンまたは水素であり;Rは−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO−または−NR−(Rは水素またはC1−6アルキルである)で示される2価の基、水素、ヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、アミノまたはC1−6アルキル−カルボニルであり;R、R、Rはそれぞれ独立してヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、置換されていてもよいアリル、ニトロ、水素またはハロゲンであり;Rはヒドロキシまたは水素である〕に合致するかどうかを調べる工程と
合致した化合物のグリオキサラーゼI活性阻害活性を調べる工程と
を含む、アポトーシス阻害活性を有する化合物をスクリーニングする方法。
【0022】
以下の説明において、上記ファーマコフォアを有する化合物、式(I)〜(III)のいずれかで示される化合物を総合してGLO I活性阻害化合物とも表し、また、該化合物またはその配糖体を含有するGLO I阻害剤およびアポトーシス誘導剤を単に本発明の薬剤と表することもある。
【発明の効果】
【0023】
本発明の薬剤は、GLO I阻害剤としては新規な骨格を有する化合物を有効成分とするため、従来のGSH誘導体に見られるようなGSHが持つペプチド骨格、特に負電荷を持つ2つのカルボキシル基による膜透過性、吸収性、安定性への影響がない点で有用であり、医薬品のリード化合物としてもGSH誘導体よりも適切である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本明細書におけるC1−6アルキルとは、炭素数1〜6の直鎖または分枝のアルキル基を意味し、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、tert−ヘキシルなどが挙げられる。
本明細書におけるC1−6アルコキシとは、炭素数1〜6の直鎖または分枝のアルキルオキシ基を意味し、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペンチルオキシ、イソペンチルオキシ、ネオペンチルオキシ、tert−ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、イソヘキシルオキシ、tert−ヘキシルオキシなどが挙げられる。
本明細書におけるC1−6アルケニルとは、炭素数1〜6の直鎖または分枝のアルケニル基を意味し、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキサニレンなどが挙げられる。
本明細書におけるハロゲンとしては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられる。
本明細書におけるアリールとは、1〜3員の芳香族基を意味し、例えば、フェニル、ナフチル、アントラセニルなどが挙げられる。
本明細書における置換されていてもよいアリールの置換基としては、例えば、ヒドロキシ、C1−6アルキル、C1−6アルコキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、置換されていてもよいアリル、ニトロおよびハロゲンが挙げられるが、なかでもニトロおよびハロゲンが好ましい。
本明細書における含窒素複素環基とは、少なくとも1つ以上の窒素原子を環構成原子として含む単環系または縮合環系の複素環基を意味し、例えば、ピロリニル、イミダゾリニル、ピラゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、ピリジニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、ピロリジニル、カルバゾリニルなどが挙げられる。
本明細書における芳香族環とは、単環系および縮合環系の芳香族環を意味し、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセンなどが挙げられる。
本明細書におけるC3−6シクロアルカンとは、炭素数3〜6の脂肪族シクロアルカンを意味し、例えば、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサンなどが挙げられる。
本明細書におけるC3−6シクロアルケンとは、炭素数3〜6の脂肪族シクロアルケンを意味し、例えば、シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどが挙げられる。
本明細書における置換されていてもよいアリルの置換基としては、置換されていてもよいアリールの置換基として例示したようなものが挙げられるが、なかでもC1−6アルキルが好ましい。
【0025】
としては、ヒドロキシ、C1−6アルコキシ(特にメトキシ)または水素が好ましい。
としては、ヒドロキシ、C1−6アルコキシ(特にメトキシ)、アリール(特にフェニル)またはC1−6アルキル−カルボキシ(特にメチルカルボキシ)が好ましい。
としては、−O−または水素が好ましい。
、R、Rとしては、ヒドロキシ、C1−6アルコキシ(特にメトキシ)、ハロゲン(特に塩素)、C1−6アルキル−カルボキシ(特にメチルカルボキシ)、置換されていてもよいアリル(特に1,1−ジメチルアリル)、ニトロまたは水素が好ましい。
11としては、C1−6アルコキシ(特にメトキシ)または水素が好ましい。
12としては、ヒドロキシ、C1−6アルコキシ(特にメトキシ)またはC1−6アルキル−カルボキシ(特にメチルカルボキシ)が好ましい。
13としては、ヒドロキシ、C1−6アルコキシ(特にメトキシ)または水素が好ましい。
15、R16、R17としては、ヒドロキシ、C1−6アルコキシ(特にメトキシ)、C1−6アルキル−カルボキシ(特にメチルカルボキシ)、置換されていてもよいアリル(特に1,1−ジメチルアリル)または水素が好ましい。
としては、点線部が単結合である場合、−O−が好ましく、点線部に結合が存在しない場合、水素が好ましい。
としては、−O−が好ましい。
22としては、アリール(特にフェニル)、アリール−C1−6アルキル(特にフェニルメチル)またはC1−6アルコキシ−カルボニル(特にエトキシカルボニル)が好ましい。
また、R21とR22が、各基が結合する5員環上の原子と一緒になって、シクロヘキセンを形成するのも好ましい。
23としては、ヒドロキシが好ましい。
24としては、フェニル、クロロフェニルまたはクロロニトロフェニルが好ましい。
Yとしては、炭素が好ましい。
Zが窒素であるときWとしては−CH−または結合が好ましく、Zが炭素であるときWとしては=CH−が好ましい。
31としては、ヒドロキシ、アリールで置換されていてもよいC1−6アルコキシ(特にメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、tert−ブトキシ、フェノキシ、フェニルメトキシ)、C1−6アルケニルオキシ(特に2−メチルプロペニルオキシ)が好ましい。
32としては、ヒドロキシが好ましい。
33としては、ヒドロキシが好ましい。
34、R35、R36としては、ヒドロキシまたは水素が好ましい。
【0026】
本発明の薬剤の有効成分として用いる化合物としては、下記の式で表されるフラボン骨格、カルコン骨格、オーロン骨格を有する化合物、および上述の式(II)、式(III)で示される化合物、ならびにそれらの配糖体が好ましい。
【0027】
【化10】

【0028】
フラボン骨格を有する化合物としては、特に、ルテオリン、バイカレイン、3−aco−2−(3,4−ジアセトキシフェニル)−5−ヒドロキシ−4−オキソ−4H−クロメン−7−イル酢酸、アピゲニン、ケルセチン、ケンフェロール、オロキシリンA、ラムネチン、アカセチン、オウゴニンが好ましい。
【0029】
フラボン骨格を有する化合物はいかなる方法によって得られるものであってもよいが、例えば、マメ科、アヤメ科、バラ科等に属する植物から、慣用の抽出精製方法を用いて遊離化合物または配糖体として得ることができる。
【0030】
例えば、オロキシリンAおよびオウゴニンは、以下のようにして得ることができる。
オウゴン(450g)をエタノールで抽出し、得られたエタノールエキスに水を加え、エチルエーテルで分配する。エーテル層をSephadex LH−20を担体とするカラムクロマトグラフィーに付し、ベンゼン−アセトンの混液で溶出させ、3画分(fr.1、fr.2、fr.3)を得る。このうちfr.1をさらにシリカゲルを担体とするカラムクロマトグラフィーに付し、ベンゼンで溶出させ、オロキシリンA(20mg)およびオウゴニン(40mg)を得る。
【0031】
また、天然に見出されていない本発明のフラボン骨格を有する化合物については、例えば、天然から単離され得るフラボン骨格を有する化合物を、慣用の方法を用いて改変することにより調製することができる。
【0032】
カルコン骨格を有する化合物としては、特に、3,4,4’,6’−テトラヒドロキシ−6−メトキシカルコン、リコカルコンA、リコカルコンBが好ましい。
【0033】
カルコン骨格を有する化合物はいかなる方法によって得られるものであってもよいが、例えば、キク科植物等から、慣用の抽出精製方法を用いて遊離化合物または配糖体として得ることができる。
【0034】
例えば、リコカルコンAおよびBは、市販の新彊産甘草を70%含水アセトン中でホモジナイズし、遠沈で不溶物を除いた後、上清の濃縮物をエーテルと水で分配、エーテルエキスについて遠心向流分配クロマトグラフィー(クロロホルム−メタノール−水7:13:8;下降法)およびシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム−メタノール98:2で溶出)を組み合わせて分離することにより、それぞれ黄色結晶として得ることができる。
【0035】
また、3,4,4’,6’−テトラヒドロキシ−6−メトキシカルコンは、例えば、東北甘草を上記と同様含水アセトン抽出し、そのエーテルエキスについて液滴向流分配クロマトグラフィー(クロロホルム−メタノール−プロパノール−水45:60:10:40;下降法)、MCI−ゲル CHP−20Pを吸着剤とするカラムクロマトグラフィー(含水メタノールで溶出)およびシリカゲル薄層での分取クロマトグラフィーを組み合わせて分離することにより、リコカルコンB、グリシクマリンとともに、黄色結晶として得ることができる。
【0036】
また、天然に見出されていない本発明のカルコン骨格を有する化合物については、例えば、天然から単離され得るカルコン骨格を有する化合物を、慣用の方法を用いて改変することにより調製することができる。
【0037】
オーロン骨格を有する化合物としては、特に、スルフレチンが好ましい。
【0038】
オーロン骨格を有する化合物はいかなる方法によって得られるものであってもよいが、例えば、キク科植物等から、慣用の抽出精製方法を用いて遊離化合物または配糖体として得ることができる。
【0039】
例えば、スルフレチンは、Extrasynthese社(フランス)から入手することができる。
【0040】
また、天然に見出されていない本発明のオーロン骨格を有する化合物については、例えば、天然から単離され得るオーロン骨格を有する化合物を、慣用の方法を用いて改変することにより調製することができる。
【0041】
式(II)で示される化合物はいかなる方法によって得られるものであってもよく、適宜慣用の合成法を組み合わせて合成してもよいし、市販のものであってもよい。
【0042】
式(II)で示される化合物としては、特に、2−(4−クロロ−3−ニトロベンジリデン)−4−ヒドロキシ−5−フェニルシクロペント−4−エン−1,3−ジオン、1,4−ジベンジル−3−ヒドロキシ−1H−ピロール−2(5H)−オン、1−(4−クロロフェニル)−3−ヒドロキシ−2,4,5,6−テトラヒドロ−2−インドロン、エチル 4−ヒドロキシ−5−オキソ−1,2−ジフェニル−2,5−ジヒドロ−1H−ピロール−3−カルボキシレートが好ましい。
【0043】
式(II)で示される化合物のうち好ましい化合物は、例えば、2−(4−クロロ−3−ニトロベンジリデン)−4−ヒドロキシ−5−フェニルシクロペント−4−エン−1,3−ジオンはRareChemicals社(カタログナンバー:BBRB1572)、1,4−ジベンジル−3−ヒドロキシ−1H−ピロール−2(5H)−オンはTimTec社(カタログナンバー:ST209817)、1−(4−クロロフェニル)−3−ヒドロキシ−2,4,5,6−テトラヒドロ−2−インドロンはSigma−Aldrich社(カタログナンバー:S760684)、エチル 4−ヒドロキシ−5−オキソ−1,2−ジフェニル−2,5−ジヒドロ−1H−ピロール−3−カルボキシレートはSigma−Aldrich社(カタログナンバー:S977675)から入手することができる。
【0044】
式(III)で示される化合物はいかなる方法によって得られるものであってもよく、適宜慣用の合成法を組み合わせて合成してもよいし、市販のものであってもよい。
【0045】
式(III)で示される化合物としては、特に、2−(3,4−ジヒドロキシベンジリデン)−4,5−ジヒドロキシ−6−フェノキシ−1,2−ジヒドロインドール−3−オン、2−(3,4−ジヒドロキシベンジリデン)−4,5,6−トリヒドロキシ−1,2−ジヒドロインドール−3−オン、2−(3,4−ジヒドロキシベンジリデン)−4,5−ジヒドロキシ−6−メトキシ−1,2−ジヒドロインドール−3−オン、6−ベンジルオキシ−2−(3,4−ジヒドロキシベンジリデン)−4,5−ジヒドロキシ−1,2−ジヒドロインドール−3−オン、2−(3,4−ジヒドロキシベンジリデン)−6−エトキシ−4,5−ジヒドロキシ−1,2−ジヒドロインドール−3−オン、2−(3,4−ジヒドロキシベンジリデン)−4,5−ジヒドロキシ−6−イソプロポキシ−1,2−ジヒドロインドール−3−オン、2−(3,4−ジヒドロキシベンジリデン)−4,5−ジヒドロキシ−6−イソブトキシ−1,2−ジヒドロインドール−3−オン、2−(3,4−ジヒドロキシベンジリデン)−4,5−ジヒドロキシ−6−プロポキシ−1,2−ジヒドロインドール−3−オン、2−(3,4−ジヒドロキシベンジリデン)−4,5−ジヒドロキシ−6−(2−メチルプロペニルオキシ)−1,2−ジヒドロインドール−3−オンが好ましい。
【0046】
式(III)で示される化合物は、例えば、以下のような合成スキームによって得ることができる。なお、各合成スキーム中の記号の定義は上述のとおりである。
【0047】
化合物Aから、例えば、R.M.Acheson:「複素環化合物の化学」,科学技術出版社,pp212−213の記載に従い、化合物Bを得る。
【0048】
【化11】


化合物Bをアセチル化して化合物Cを得る。その後、化合物Cを、化合物Dと、例えば、Buzas,A.;Merour,J.Y. Synthesis,1989,458−461の記載に従って反応させることによって、化合物(III)が得られる。
【0049】
【化12】

【0050】
本発明のスクリーニング方法は例えば以下のようにして行うことができる。
ファーマコフォア定義
【0051】
【化13】


を満たす化合物を選択し、慣用のドッキングプログラムを用いてGLO Iの立体構造と該化合物の結合スコアを計算し、結合スコアの良好な化合物のGLO I活性阻害活性をin vitroで評価する。ここで用いられるドッキングプログラムは、特に限定されず、当分野で一般的に利用可能なソフトウェアを用いればよく、そのようなソフトウェアとしては、例えば、DOCK、AUTODOCKなどが挙げられるが、結晶構造中の阻害剤(PDBコード1QIN)のZn2+との配位座標を基にファーマコフォア定義を満たす化合物をそれに重ね合わせ複合体モデルを作成し、その後、AMBER力場[W.D.Cornell et al., J.Am.Chem.Soc.,117,5179−5197(1995)]を用いて構造最適化を行い、得られるエネルギーを結合親和性スコアとして計算するプログラムが好ましい。in vitroの評価としては、例えば、酵素反応生成物の吸光度の測定、既存の阻害剤に蛍光色素を付加した分子を利用した蛍光偏光測定などが挙げられる。
このようにして、GLO I活性阻害活性を有する化合物をスクリーニングすることができる。
【0052】
本発明におけるGLO I活性阻害活性とは、例えば、酵素反応生成物の吸光度の測定や既存の阻害剤に蛍光色素を付加した分子を利用した蛍光偏光測定などのGLO I活性を評価可能な方法を用いて評価した場合に、コントロールに比べて有意にGLO I活性を阻害する活性を意味し、100μMでの%阻害が10%以上であるのが好ましく、30%以上であるのがさらに好ましい。
【0053】
また、本発明におけるアポトーシス誘導活性とは、例えば、MTTアッセイなどの細胞の増殖を評価可能な方法を用いて評価した場合に、コントロールに比べて有意にアポトーシスを誘導する活性を意味し、EC50が30μM以下であるのが好ましく、20μM以下であるのがさらに好ましい。
【0054】
本発明の薬剤を医薬として使用する場合、上記ファーマコフォアまたは式(I)〜(III)のいずれかで示される化合物(以下これらを総称して本発明の化合物ともいう)の少なくとも1種を、医薬上許容される担体(例えば、賦形剤、希釈剤等)などの必要な成分と適宜混合し、液状製剤、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、エアロゾル剤等の慣用の任意の剤形に製剤化して、経口的または非経口的に投与することができる。
【0055】
医薬上許容される担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリジン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラバン、プロピルパラバン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0056】
好ましくは、本発明の薬剤は、経口または注射製剤である。好適な経口製剤は、水、生理食塩水、オレンジジュースのような希釈液に有効量の本発明の化合物を溶解させた液剤、有効量の該化合物を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サシェ剤または錠剤、適当な分散媒中に有効量の該化合物を懸濁させた懸濁液剤、有効量の該化合物を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤等である。
【0057】
好適な注射製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、肥厚剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。本発明の製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、本発明の化合物および医薬上許容される担体を凍結乾燥(フリーズドライ)し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0058】
本発明の薬剤の投与量は、有効成分である本発明の化合物の有効量、該化合物の細胞毒性、病気の進行度、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なるが、通常、成人1日あたり30μg〜30mg/kg体重、好ましくは300μg〜3mg/kg体重であり、この量を1回または数回に分けて投与することができる。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0060】
GLO I活性阻害活性を有する化合物の同定
基質の遷移状態を基に以下のファーマコフォア定義1を構築した。
【0061】
【化14】

【0062】
予め構築しておいた化合物ライブラリよりファーマコフォア定義1を有する化合物を選択し、選択した化合物をドッキングプログラム(結晶構造中の阻害剤(PDBコード1QIN)のZn2+との配位座標を基にファーマコフォア定義を満たす化合物をそれに重ね合わせ複合体モデルを作成し、その後、AMBER力場[W.D.Cornell et al., J.Am.Chem.Soc.,117,5179−5197(1995)]を用いて、構造最適化を行い得られるエネルギーを結合親和性スコアとして計算するプログラム)を用いてスクリーニングした。スクリーニングした化合物をin vitroで評価し(in vitro評価方法は後述)、後述の化合物1〜14を同定した。このin vitro評価の結果を基に、さらに以下のファーマコフォア定義2を構築した。
【0063】
【化15】

【0064】
化合物ライブラリよりファーマコフォア定義2を有する化合物を選択した。選択した化合物をドッキングプログラム(結晶構造中の阻害剤(PDBコード1QIN)のZn2+との配位座標を基にファーマコフォア定義を満たす化合物をそれに重ね合わせ複合体モデルを作成し、その後、AMBER力場[W.D.Cornell et al., J.Am.Chem.Soc.,117,5179−5197(1995)]を用いて、構造最適化を行い、得られるエネルギーを結合親和性スコアとして計算するプログラム)を用いてスクリーニングした。スクリーニングした化合物をin vitroで評価し(in vitro評価方法は後述)、後述の化合物15〜18を同定した。
【0065】
ファーマコフォア定義2を元に以下の製造例1〜9の化合物をモデリングした。製造例1〜9の化合物は以下の合成スキームに従って作製できる。
【0066】
製造例1:2−(3,4−ジヒドロキシベンジリデン)−4,5−ジヒドロキシ−6−フェノキシ−1,2−ジヒドロインドール−3−オンの合成
2−(3,4−ジヒドロキシベンジリデン)−4,5−ジヒドロキシ−6−フェノキシ−1,2−ジヒドロインドール−3−オンは以下の合成スキームに従って作製することができる。
【0067】
工程1
メチル 3,4,5−トリヒドロキシベンゾエート(アルドリッチ社製)から、Scheline,R.R. Acta.Chem.Scand.,1966,20,1182の記載に準じ、メチル 3,4−ジヒドロキシ−5−フェノキシベンゾエートを得る。メチル 3,4−ジヒドロキシ−5−フェノキシベンゾエートから、Shair,M.D.;Yoon,T.Y.;Mosny,K.K.;Chou,T.C.;Danishefsky,S.J. J.Am.Chem.Soc.,1996,118,9509の記載に準じ、メチル 7−フェノキシ−2,2−ジフェニルベンゾ[1,3]ジオキソール−5−カルボキシレートを得る。
【0068】
【化16】

【0069】
工程2
工程1で得られたメチル 7−フェノキシ−2,2−ジフェニルベンゾ[1,3]ジオキソール−5−カルボキシレートのカルボキシ基を脱保護し、Stockel,R.F.;Hall,D.M. Nature,1963,197,787に記載の方法に準じ、5−アミノ−3−フェノキシベンゼン−1,2−ジオールを得る。5−アミノ−3−フェノキシベンゼン−1,2−ジオールから、Paquet,A. Can.J.Chem.,1982,60,976の記載に準じ、9H−フルオレン−9−イルメチル (3,4−ジヒドロキシ−5−フェノキシフェニル)カルバメートを得る。9H−フルオレン−9−イルメチル (3,4−ジヒドロキシ−5−フェノキシフェニル)カルバメートのアミノ基を脱保護し、Shair,M.D.;Yoon,T.Y.;Mosny,K.K.;Chou,T.C.;Danishefsky,S.J. J.Am.Chem.Soc.,1996,118,9509の記載に準じ、7−フェノキシ−2,2−ジフェニルベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルアミンを得る。
【0070】
【化17】

【0071】
工程3
工程2で得られた7−フェノキシ−2,2−ジフェニルベンゾ[1,3]ジオキソール−5−イルアミンから、R.M.Acheson 「複素環化合物の化学」,科学技術出版社,pp212−213の記載に準じ、4−フェノキシ−2,2−ジフェニル−6,7−ジヒドロ−1,3−ジオキサ−6−アザ−as−インダセン−8−オンを得る。4−フェノキシ−2,2−ジフェニル−6,7−ジヒドロ−1,3−ジオキサ−6−アザ−as−インダセン−8−オンをアセチル化して、6−アセチル−4−フェノキシ−2,2−ジフェニル−6,7−ジヒドロ−1,3−ジオキサ−6−アザ−as−インダセン−8−オンを得る。
【0072】
【化18】

【0073】
工程4
工程3で得られた6−アセチル−4−フェノキシ−2,2−ジフェニル−6,7−ジヒドロ−1,3−ジオキサ−6−アザ−as−インダセン−8−オンと3,4−ビス−(tert−ブチル−ジメチルシラニルオキシ)−ベンズアルデヒド〔Lawrence,N.J.;Rennison,D.;McGown,A.T.;Hadfield,J.A. Bioorg.Med.Chem.Lett.,2003,13,3759−3763.〕から、Buzas,A.;Merour,J.Y. Synthesis,1989,458−461の記載に準じ、6−アセチル−7−[3,4−ビス−(tert−ブチル−ジメチル−シラニルオキシ)−ベンジリデン]−4−フェノキシ−2,2−ジフェニル−6,7−ジヒドロ−1,3−ジオキサ−6−アザ−as−インダセン−8−オンを得る。
【0074】
【化19】

【0075】
工程5
工程4で得られた6−アセチル−7−[3,4−ビス−(tert−ブチル−ジメチル−シラニルオキシ)−ベンジリデン]−4−フェノキシ−2,2−ジフェニル−6,7−ジヒドロ−1,3−ジオキサ−6−アザ−as−インダセン−8−オンを脱保護して、2−(3,4−ジヒドロキシベンジリデン)−4,5−ジヒドロキシ−6−フェノキシ−1,2−ジヒドロインドール−3−オンを得る。
【0076】
【化20】



【0077】
製造例2〜9
以下の製造例2〜9の化合物は、製造例1の合成スキームに準じ、作製することができる。
【0078】
【表1】

【0079】
同定化合物の活性の測定
同定化合物のグリオキサラーゼI阻害活性およびアポトーシス誘導活性を以下に記載の手順により測定した。測定に使用した化合物は、実施例1の化合物はSigma−Aldrich(L9283)、実施例2の化合物はSigma−Aldrich(465119)、実施例3の化合物はSigma−Aldrich(R513377)、実施例4の化合物はSigma−Aldrich(460745)、実施例5の化合物はSigma−Aldrich(Q0125)、実施例6の化合物はSigma−Aldrich(K0133)、実施例8の化合物はSigma−Aldrich(17799)、実施例9の化合物は、Sigma−Aldrich(A8206)、実施例14の化合物は、Extrasynthese社(フランス)、実施例15の化合物はRareChemicals社(BBRB1572)、実施例16の化合物はTimtec社(ST209817)、実施例17の化合物はSigma−Aldrich(S760684)、実施例18の化合物はSigma−Aldrich(S977675)より購入し、実施例7、10、11、12、13の化合物は上述したような方法にて天然物から抽出した。
【0080】
グリオキサラーゼI活性阻害試験
化合物1〜18のin vitroにおけるグリオキサラーゼI活性の阻害能を以下の手順で評価した。
HL−60細胞(JCRB Cell Bank)を3mMのフェニルメタンスルホニルフルオライド(PMSF)を含むリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)(−)に溶解して凍結融解を3回行い、20,000gで15分間遠心してその上清を細胞質画分として化合物の評価に用いた。
化合物の評価は、最終濃度として100μg/mLの細胞質タンパク,7.9mMのメチルグリオキサール,1mMのグルタチオン,14.6mMの硫酸マグネシウム,182mMのイミダゾール−塩酸(pH7.0)を含む溶液中で行った。化合物0、1、3、10、30、100μM存在下、酵素反応生成物であるS−D−ラクトイルグルタチオンがもつ240nmの吸光度を5分間測定し、各化合物の100μMでの%阻害およびIC50を以下の式により算出した。
【0081】
【数1】

【0082】
上記の式で各濃度における%阻害を算出し、X軸に化合物濃度の対数、Y軸に%阻害をとったグラフを作成し、50%阻害に対応する濃度をIC50とした。
【0083】
アポトーシス誘導活性試験
化合物のアポトーシス誘導活性を確認するために、生存細胞のミトコンドリアが黄色のテトラゾリウム成分(MTT)を不溶性の紫色ホルマザン生成物に還元することを利用した比色測定法(MTTアッセイ)を実施した。
2×10cells/mlに調製したHL−60細胞(JCRB Cell Bank)を、96ウェルプレートに100μlずつ分注し、各化合物を0、1、3、10、30、100μMになるように添加した。バックグラウンド測定のために、細胞の代わりに細胞培養液を分注したウェルを用意し、同様に各化合物を添加した。これらをCOインキュベータ内で24時間インキュベートした。各ウェルに、0.5% MTT−PBS溶液を11μl添加し、COインキュベータ内で1時間インキュベートした。1500rpmで5分間遠心し、上清を捨て、ジメチルスルホキシドを100μl添加した。マイクロプレートリーダーで575nmの吸光度を測定し、以下のようにしてEC50を算出した。
細胞を分注したウェルについて測定した吸光度から、細胞培養液を分注したウェルについて測定した吸光度をバックグラウンドとして引いた。この値をY軸に、化合物濃度の対数をX軸にとったグラフを作成し、化合物(−)のY値の50%の値に対応する化合物濃度をEC50とした。
【0084】
試験結果
グリオキサラーゼI活性阻害試験およびアポトーシス誘導活性試験の結果を使用した化合物1〜18の構造式とともに下記の表に示す。
【0085】
【表2−1】

【0086】
【表2−2】

【0087】
【表2−3】

【0088】
これらの結果から、本発明の阻害剤は、優れたグリオキサラーゼI活性阻害活性およびアポトーシス誘導活性を有することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】グリオキサラーゼIの4つの結合ポケット(S〜S)と、グリオキサラーゼI活性阻害活性を有する化合物のファーマコフォアとの関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のファーマコフォア
【化1】

〔式中、Rはヒドロキシ、C1−6アルコキシ、水素またはハロゲンであり;Rはヒドロキシ、C1−6アルコキシ、アリール、アリールオキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、ハロゲンまたは水素であり;Rは−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO−または−NR−(Rは水素またはC1−6アルキルである)で示される2価の基、あるいは、水素、ヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、アミノまたはC1−6アルキル−カルボニルであり;R、R、Rはそれぞれ独立してヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、置換されていてもよいアリル、ニトロ、水素またはハロゲンであり;Rはヒドロキシまたは水素である〕
を有する化合物またはその配糖体を少なくとも一種含有する、グリオキサラーゼI活性阻害剤。
【請求項2】
以下の式(I−a)または(I−b)
【化2】


〔式中、R11はC1−6アルコキシまたは水素であり;R12はヒドロキシ、C1−6アルコキシ、アリール、アリールオキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、ハロゲンまたは水素であり;R13はヒドロキシ、C1−6アルコキシ、水素またはハロゲンであり;R14はヒドロキシまたは水素であり;R15、R16、R17はそれぞれ独立してヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、置換されていてもよいアリル、水素またはハロゲンであり;R18は、ヒドロキシ、C1−6アルキル−カルボキシまたは水素であり;点線部は任意で単結合であり、点線部に単結合がある場合、Xは−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO−または−NR19−(R19は水素またはC1−6アルキルである)で示される2価の基であり、点線部に結合が存在しない場合、Xは水素、ヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、アミノまたはC1−6アルキル−カルボニルであり;Xは−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO−または−NR19−(R19は水素またはC1−6アルキルである)で示される2価の基である〕で示される化合物、および
式(II)
【化3】

〔式中、R21はオキソ、アリールまたは水素であり;R22はアリール、含窒素複素環基、ヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、アリール−C1−6アルキル、C1−6アルコキシ−カルボニルまたは水素であるか;またはR21とR22は各基が結合する5員環上の原子と一緒になって、芳香族環、C3−6シクロアルカン、C3−6シクロアルケンを形成し;R23はヒドロキシまたは水素であり;R24は置換されていてもよいアリールであり;Y、Zは独立してそれぞれ窒素または炭素であり;Wは−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO−、−CH−、−NR25−(R25は水素またはC1−6アルキルである)で示される2価の基であるか、または結合であるか、あるいはZが炭素であるときWが=CH−であり;
【化4】

は、Y、Z、Wの種類に依存して単結合もしくは二重結合を示す〕で示される化合物、ならびに
それらの配糖体からなる群から選択される化合物を含有する、グリオキサラーゼI活性阻害剤。
【請求項3】
12がヒドロキシ、C1−6アルコキシ、またはC1−6アルキル−カルボキシであり;R13がヒドロキシ、C1−6アルコキシまたは水素であり;R15、R16、R17がそれぞれ独立してヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、置換されていてもよいアリルまたは水素であり;点線部が単結合である場合、Xが−O−であり、点線部に結合が存在しない場合、Xが水素であり;Xが−O−であり;
22がアリール、アリール−C1−6アルキルまたはC1−6アルコキシ−カルボニルであるか、またはR21とR22が各基が結合する5員環上の原子と一緒になって、C3−6シクロアルケンを形成し;R23がヒドロキシであり;Yが炭素であり;Zが窒素でありかつWが−CH−または結合であるか、あるいはZが炭素でありかつWが=CH−である、請求項2に記載のグリオキサラーゼI活性阻害剤。
【請求項4】
アポトーシス誘導剤である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のグリオキサラーゼI活性阻害剤。
【請求項5】
以下の式(III)
【化5】


〔R31はヒドロキシ、アリール、アリールオキシ、アリールで置換されていてもよいC1−6アルコキシ、C1−6アルケニルオキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、ハロゲンまたは水素であり;R32はヒドロキシ、C1−6アルコキシ、水素またはハロゲンであり;R33はヒドロキシまたは水素であり;R34、R35、R36はそれぞれ独立してヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、置換されていてもよいアリル、水素またはハロゲンである〕で示される化合物またはその配糖体。
【請求項6】
31がヒドロキシ、アリールオキシ、アリールで置換されていてもよいC1−6アルコキシまたはC1−6アルケニルオキシであり;R32がヒドロキシであり;R33がヒドロキシであり;R34、R35およびR36のいずれか1つが水素であり、残りの2つがヒドロキシである、請求項5に記載の化合物またはその配糖体。
【請求項7】
31がアリールオキシである、請求項6に記載の化合物またはその配糖体。
【請求項8】
被験化合物のファーマコフォアを調べる工程と、
該ファーマコフォアが以下のファーマコフォア
【化6】


〔式中、Rはヒドロキシ、C1−6アルコキシ、水素またはハロゲンであり;Rはヒドロキシ、C1−6アルコキシ、アリール、アリールオキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、ハロゲンまたは水素であり;Rは−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO−または−NR−(Rは水素またはC1−6アルキルである)で示される2価の基、水素、ヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、アミノまたはC1−6アルキル−カルボニルであり;R、R、Rはそれぞれ独立してヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、置換されていてもよいアリル、ニトロ、水素またはハロゲンであり;Rはヒドロキシまたは水素である〕に合致するかどうかを調べる工程と
を含む、グリオキサラーゼI活性阻害活性を有する化合物をスクリーニングする方法。
【請求項9】
被験化合物のファーマコフォアを調べる工程と、
該ファーマコフォアが以下のファーマコフォア
【化7】


〔式中、Rはヒドロキシ、C1−6アルコキシ、水素またはハロゲンであり;Rはヒドロキシ、C1−6アルコキシ、アリール、アリールオキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、ハロゲンまたは水素であり;Rは−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO−または−NR−(Rは水素またはC1−6アルキルである)で示される2価の基、水素、ヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、アミノまたはC1−6アルキル−カルボニルであり;R、R、Rはそれぞれ独立してヒドロキシ、C1−6アルコキシ、C1−6アルキル−カルボキシ、置換されていてもよいアリル、ニトロ、水素またはハロゲンであり;Rはヒドロキシまたは水素である〕に合致するかどうかを調べる工程と
合致した化合物のグリオキサラーゼI活性阻害活性を調べる工程と
を含む、アポトーシス阻害活性を有する化合物をスクリーニングする方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−96687(P2006−96687A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−282855(P2004−282855)
【出願日】平成16年9月28日(2004.9.28)
【出願人】(504365146)株式会社理論創薬研究所 (9)
【Fターム(参考)】